Q1. 漆とは何ですか。
A. 漆はうるしの木(Rhus Vernicifera,落葉小高木)から採取する自然の塗料です。漆液の特長は器胎に塗り、乾かすと漆胎は、@いっそう堅牢になり、Aその表面は光沢をみせます。そしてB漆液は強力な接着力を持っています。漆は塗料や接着剤として、日本では6,800年程前からさまざまに使われてきました。今日、多くの化学塗料がありますが、漆は生きている自然の塗料として、化学塗料とは区別されています。

Q2. 漆は乾くのですか、固まるのですか。その化学的性質を教えてください。
A. 日本産漆の化学的組成は、主成分のウルシオール60〜65%、多糖類(ゴム質)5〜7%、含窒素物2〜3%、酵素0.2%、水25〜30%ほどです。このなかのラッカーゼとよばれる酵素が、空気中から水分を多く取り入れて、ウルシオールを酸化させることによって、漆は固まる(固化)のです。湿度75〜85%、温度25℃前後が最適です。水分の蒸発による乾燥とはちがって、漆が乾くとはこのような意味です。

Q3. 漆を木から採取する方法は。
A. 漆はうるしの木にキズをつけ、そこからにじみ出た樹液を採ります。うるしの木は、一本一本個性があり、その木に合った採取方法を取る必要があります。例えば、キズの長さや数、そしてキズ口を養生する日数等です。
漆掻き(採取する人)によって同じ木でも漆の質や量が異なります。

Q4. 漆を採取された後のうるしの木はどうなりますか。
A. 切り倒します。うるしの木は、15年生平均で約150日かけ漆を採取され200K程の漆液を残し一生を終わります。

Q5. 漆はどこで採れますか。
A. かつて、日本のどこでも農家の畑や田の近くに沢山うるしの木がありました。今日では日本の漆の主な生産地は岩手県で約80%をしめます。しかし量は1.5トンと少なく、日本で使用する漆の量の90%以上は中国からの輸入です。

Q6. うるしの木一本から採れる漆でお椀なら何個塗れますか。
A. 15年生のうるしの木から200K程の漆が採れ、吸物椀ほどの大きさなら10個程塗れます。

Q7. 漆の質の違いについて教えてください。
A. 漆は一本、一本その木によって質が違います。又、採取する技術、採れる場所やその年の気候、その日の天候や時間、季節によっても質が異なります。乾燥の早いもの遅いもの、ツヤのあるもの無いものや、強度にも違いがあります。

Q8. 漆の色はどんな色ですか。赤や黒はどうやって出すのですか。
A. まず木から採取した漆の色は肌色をしています。これをこしたものを生漆と呼び下地工程で使用します。生漆が乾くと濃いアメ色になります。次に生漆に熱を加え水分を抜いたものが中塗漆で、色は乾くと黒褐色です。更に精製すると透明度の高い上塗漆になります。この上塗漆を鉄粉に反応させると黒くなります。これが黒漆の漆です。赤は赤の顔料を上塗漆の中へ入れて作ります。他の色も同じように作ります。

Q9. 日本と中国の漆は同じですか。
A. うるしの木は東アジア、東南アジアに分布していますが、それぞれ質が違います。日本の漆が最も品質が高く、それにつづくのが、中国の漆です。日本と中国の漆の主成分はウルシオールですが、含有率で日本の漆は70%以上含まれ中国産より平均で10%以上多い数値です。更にはウルシオールは含有率だけでなく、その質も問われます。日本の漆のウルシオールは、高い品質を誇ります。

Q10. 漆の匂いはどうすれば消えますか。
A. 一見して完成している漆器でも、漆が強い塗膜となるには、1年から2年という長い時間がかかります。漆の匂いは乾燥の中途を示す目安です。自然にゆっくりと匂いが消えるのを待つことが一番です。なお、かつて粋人は漆の匂いを好んだといわれます。

Q11. 漆器と化学塗料で塗られた器の見分け方は。
A. 質の高い漆を使い、優れた技で塗られた漆器は化学塗料で塗られたものとはいくつかの違いがあります。まず、本物の漆器のツヤには深みがあり、表面的な油っぽいツヤとは違います。又、表面は瑞々しく潤んで見えます。そして表面張力が働いたようにふっくら感があります。手でふれると漆器独特のやさしさ感があり、感性に問いかけてきます。

Q12. 漆の良さと弱点を教えてください。
A. 漆の塗膜はツヤやかとした美しさ、肌のやさしさ、そして丈夫さ、接着力の強さ等の特長を持ち、その塗膜は酸、アルカリにも侵されず、王水やフッ化水素にも溶けません。又、断熱性にすぐれ、一方では電流や放射線も通しません。耐久性は6,800年前の遺跡の出土品を見てもわかります。この漆にも弱点があります。第一に紫外線に弱く塗膜が劣化します。又、塗りあがって間もなくのものは硬度が低くキズがつきやすい欠点があります。しかしこれらは生きている塗料のあかしでもあります。

Q13. なぜ分業制となっているのですか。
A. 漆器作りはさまざまな技術が要求されます。漆の採取技術、木地技術、塗装技術、研磨技術・・・等々複合技術の結集によって漆器は生まれます。それぞれが熟練を必要とする専門部門です。より良い漆器づくりには、分業制による技術の高度化が必要なのです。

Q14. 木地工程の難しいところを教えてください。
A. まず木地は漆器作りの基礎の素地となるものです。塗ると見えなくなります。それだけ責任が重いといえます。まず、材料の乾燥状態を見極めること。塗り上がりの形を予想しながら作業を進める等ありますが、木は一つ一つ性質が違うのでその木の性質をつかみながら形をつくります。木地は最初の形づくりで多くの道具を使いますが、一人前となるためには10〜15年程の修業を必要とします。

Q15. 下地工程の難しいところを教えてください。
A. 下地塗は堅牢な漆器を作る大切な工程で、輪島塗の特長ともなっています。堅牢性の外に、下地塗は美しい形を作る成形工程でもあります。丈夫で美しい形を作るのは難しく、下地塗で使う道具のヘラは器物に合わせて一つ一つ工程ごとに職人さんが作ります。吸物椀で40種類のヘラを使いこなさなければなりません。

Q16. 研物工程の難しいところを教えてください。
A. 下地工程と同じく、成形工程で形と整えるために器物に合わせて、多く砥石を作り使います。美しい器物の面は、どこまでも同じ幅、同じ角度でなければなりません。下地作業と同様、10年〜15年以上の熟練を費やします。

Q17. 上塗工程の難しいところを教えてください。
A. 上塗は仕上工程です。この工程はそれぞれに性質の違う漆を使いこなし、常にミクロの正確さで塗りの厚みを同じ厚さで塗り上げなければなりません。又、室内はホコリを嫌い、作業中についた塗面のチリは塗面にふれずに取り除く技術が必要です。その他、上塗漆の調合も美しい漆器作りにかかせません。

Q18. 漆器の制作日数はどのくらいかかりますか。
A. 木地は5年、10年と長く乾燥させればするほど良いと云われています。木地の乾燥期間をのぞき、文様の無いもので10ヶ月から12ヶ月。蒔絵や沈金の加飾のあるものでは、その加飾によっては2年から3年かかるものもあります。

Q19. 漆はかぶれませんか。
A. しっかりと漆が乾燥した漆器は何人も、かぶれることはありません。塗膜が不完全な乾きの状態では、皮膚の弱い人はまれにかぶれます。又、漆液の状態では、ほとんどの人がかぶれます。職人さんは免疫ができ、かぶれなくなります。万が一、かぶれた場合は市販の薬でなく皮膚科での治療が早く治ります。

Q20. 漆器の取扱はどうすれば良いのですか。
A. 良い漆器は普通の食器と同じ扱いでかまいませんが、次のことに注意してください。
@電子レンジは使用しない(木製ですから)。A乾燥機はなるべく使用しない(焼き物より水切れが良いので軽く布でふいてください)。B高温や直射日光の下はさける。洗いは、お湯でも水でもかまいませんし、洗剤を使用してもけっこうです。柔らかめの布を使用してください。

Q21. 本物の漆器は環境にやさしいといいますが、なぜですか。
A. 漆器作りは材料や道具のすべてを自然のものを使います。丈夫な漆器は長い間の使用に耐え、その間、資源の節約にもなります。そして使用後は土に還ります。又、化学塗料は乾燥するとき、有害な溶剤の媒体を必要としますが、漆液は自然の空気に触れて乾きますので、この点でも安心です。

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